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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(あ)1776号 判決 1971年4月15日

主文

原判決中「当審における未決勾留日数中一五〇日を本刑に算入する。」との部分を破棄する。

理由

その余の部分に対する本件上告を棄却する。

検察官の上告趣意について。

記録によれば、被告人は、本件起訴前である昭和四四年三月二九日、本件尊属殺人の事実により勾留状の執行を受けて以来、第一、二審を通じ勾留を継続されていたものであるが、第一審である札幌地方裁判所小樽支部は、昭和四五年二月二三日、被告人を無期懲役に処する旨の判決を言い渡し、被告人はこれに対して同年三月三日、控訴を申し立てたところ、原審裁判所は、同年八月二〇日、第一審判決の量刑を不当としてこれを破棄し、被告人を懲役一五年に処するとともに、第一審における未決勾留日数中二五〇日および控訴審における未決勾留日数中一五〇日をいずれも右本刑に算入する旨の判決を言い渡したことが認められる。そして、原判決が右のとおり控訴審における未決勾留日数中一五〇日を本刑に算入する旨言い渡した点は、その理由中の記載に照らし、被告人の控訴申立後、控訴審判決言渡の前日までの未決勾留日数の一部を、刑法二一条により裁量により算入した趣旨であることが明らかである。

しかし、本件のごとく、控訴審が被告人の控訴に基づき第一審判決を破棄する場合には、控訴申立後の未決勾留日数は、刑訴法四九五条二項二号により、判決が確定して本刑の執行される際当然に全部本刑に通算されるべきものであって、控訴裁判所には、右日数を本刑に通算するか否かの裁量権が委ねられておらず、したがって刑法二一条により判決においてその全部または一部を本刑に算入する旨の言渡をすべきでないことは、当裁判所昭和二五年(あ)第一四七七号同二六年三月二九日第一小法廷決定(刑集五巻四号七二二頁)の示すところであるから、原判決中、控訴審における未決勾留日数の一部を本刑に算入した部分は、右判例に違反して刑法二一条を適用したものであり、この点に関する論旨は理由がある。

よって刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中一五〇日を本刑に算入する。」との部分を破棄し、その未決勾留日数を算入しないこととし、原判決中その余の部分に対する検察官の上告は、上告趣意としてなんらの主張がなく、したがってその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条により棄却し、当審における訴訟費用は同法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

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